不揮発性メモリ素子(MTJ)をチップ内部に組込み、こまめに電気を切る省エネ技術
(共同研究先: ソニー(株)、慶応大)

IoTのセンサーノードで使われるチップは、バッテリー交換が困難な場所で使われることも多いため、非常に少ない電気で長時間の動作が維持できなければなりません。こういったチップの特徴は、内部の計算動作自体は時間が短く、動作していない時間が非常に長いという点です。動作していない時間は、こまめにチップの電源を切ってバッテリーの消耗を防ぎたいのですが、チップ内部の記憶回路は電源を切ると記憶データが消失してしまうという問題がありました。これを防ぐには、電源遮断の前にチップ外部にデータをセーブし、電源復帰後またそれを戻すという処理が必要で、この処理も電気を食うこと、さらに、高速復帰ができないという難点がありました。

この課題を解決するため、宇佐美研では、不揮発性メモリ素子(MTJ, Magnetic Tunneling Junction)をフリップフロップに組み込んだ記憶回路を考案し、ソニー(株)および慶応大と共同で、この記憶回路を適用したハードウェア・アクセラレータのチップを開発しました(下図)。MTJおよびスイッチ素子の製造ばらつきにより、書込み動作に長時間かかる記憶回路と、短時間でも書込みが行える記憶回路がチップ内には混在します。チップ内の数万個におよぶ記憶回路のすべてで正しく書込みを行うために、従来は十分に長い時間をかけて書込みを行う手法が採られており、結果として書込み動作に膨大なエネルギーを消費していました。宇佐美研の開発した回路と書込み方式では、書込みを2段階で行うことにより、短時間で書込める記憶回路を自動で認識し、長時間の書込みを行わないようにします。

チップを試作し、専用ボードに載せて画像処理等で使われる離散コサイン変換のプログラムを走らせて実測した結果、従来方式に比べ、消費エネルギーが40%も削減できることが明らかになりました。この論文は今年2020年のIEEE主催の国際学会 Cool Chips 23にアクセプトされ、発表しました。

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