人間の視覚特性を利用し「計算の間違いをあえて許す」ことで省エネする技術

コンピュータはこれまで、計算を間違ってはいけないもの、とされてきました。ところが、コンピュータが高性能化の一途を辿った結果、膨大な電力を食うようになり、これが現在大きなネックとなっています。一方で、コンピュータは画像処理や機械学習といった分野でも利用されますが、そこでは、計算は多少間違えても結果にさほど影響しないという領域があることがわかってきました。計算の間違いをわずかに許すことで、消費エネルギーの削減や実行時間の短縮を実現する技術が、アプロキシメート・コンピューティング(Approximate Computing)です。

これまでこの分野の研究では、計算に使う演算回路や計算方式の簡略化により、計算そのものの省エネを図る研究に力点が置かれていましたが、宇佐美研では、データの記憶動作にも省エネが必要であることに着眼し、不揮発性メモリの書込み動作にアプロキシメート・コンピューティングを適用する研究を進めています。画像データを不揮発性メモリに記憶する際に、我々の提案する技術を適用すると、画質の低下を効果的に抑えつつ書込みの消費エネルギーを50%まで削減できることが明らかになりました(図(上))。この論文は、IEEE主催の国際学会 The 9th Non-Volatile Memory Systems and Applications Symposium (NVMSA) にアクセプトされ、2020年8月に発表しました。

計算そのものの消費エネルギーを削減する、新しいアプロキシメート・コンピューティングの手法も研究しています。ポイントになるのは、メモ化と呼ぶ手法で、一度演算したら計算の入力データと出力結果をテーブルにしまっておき、その後、同じ入力データで計算が生じたら、計算は行わずにテーブルに覚えておいたデータを使う、という手法です。ただこれだと、完全に入力データが一致しないと使えない(使える頻度が低い)ので、だいたい一致したら使っちゃおう、それで間違いが大きければごく簡単な近似計算で補正しよう、という方式を考案しました。実際に画像処理に適用したところ、画質をさほど落とさずに、トータルの実行時間も消費エネルギーも削減できることが明らかになりました(図(下))。この研究成果は、当時大学院修士1年の小野義基君が国際学会ITC-CSCC 2019で発表し、最優秀論文賞(Best Paper Award)を受賞しました。

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